言語聴覚士によることばのリハビリをご紹介➁失語症編

Hbtkms

言語聴覚士が働いているのは、病院や介護施設、あるいは訪問リハビリなどをイメージすることが多いのではないでしょうか?

ただ、理学療法士や作業療法士と違って、個室でリハビリすることが少なくないため、実際にどんなことをしているのか、よくわからないということもあると思います。

今回はその中でも「失語症」に対するリハビリをするときの様子を、少しだけご紹介。

「失語症」というのは、脳の損傷によって、一度は獲得されたはずの言語能力が思うように行使できなくなった状態です。これは、話すこと(表出)も受け取ること(理解)も共にダメージを受けますので、どちから一方のみという場合などは失語症とは言いません。

では、どんなリハビリをするかというと、実はなかなか一様には書ききれない部分があるのですが、私の場合の一例でご紹介をします。

まず、理解のトレーニング。

ことばを理解するためには、どんな事がわかっていなければいけないかというと、

・音の高さ

・音の長さ

・音の形

などが、基本的には聞いただけで概ね理解できる必要があります。

高さ、長さというのは比較的わかりやすいでしょう。「形」は、これは私の感覚的な表現なので的確ではないかもしれませんが、いわゆる「あいうえお」や「かきくけこ」など、文字にした時にどんな音として認識できるかという事です。

もう少し細かく見るなら、母音(あいうえお)や、それに付随する子音の形などを分析する力です。

これらを、耳で聞いて理解する必要があります。

とはいえ、実は私たちがことばを理解する時には、音の全てをまるまる精密に分析するわけではありませんよね?

周囲が騒がしい時、後ろから不意に声をかけられたりした時など、「聞く」ことに不利な状況であっても、不思議と聞き取ることができるものです(もちろん、聞き取れないこともありますが)

これは、ある程度省エネ的に、輪郭や雰囲気から推測して理解する力が働いているからであり、また、聞こえてきた音声のうちの、必要な要素だけを抽出する力があるからです。

だんだん説明が難しくなってきてしまいました…。
が、つまりは、「きちんと聞こえなくても、なんとなくわかる力」があるということです。

なので、「聞く」を練習する時には、私は曖昧な音声で特徴を抽出して聞き取るような練習をすることが多いです。

こちら、自主練習用に作った教材ですが、録音した音声を、あえて聞き取りにくく加工しています。音の長さやイントネーションなどをてがかりに、4枚ある写真のうちから、どの写真について言っているかを考える練習です。

これは、いきなりチャレンジすると、結構難しいかもしれません。

予備的に、声の高低や長短を聞き取って、あるいは真似をする練習をしながら、「ことば」を構成する様々な要素を、ピンポイントで分析して感じ取る練習をしています。

次に、「話す」練習です。

これも、一口に「話す」と言っても、なめらかに話せないというパタンや、言葉が思い浮かばないというパタン、はたまた、文になるとスッキリまとめられないというパタンなどがあります。

私の場合は、大きく2つのジャンルに分けて練習を組み立てています。

1つは、滑らかさ(流暢さ)の練習。

そして、もう一つはことばを思い出す(想起する)練習。これは、単語に限らず、文や文章、応用的な会話練習も含みます。

滑らかさの練習の場合、麻痺とは違いますので、多くの場合は、むしろ力を抜くようにアドバイスすることが多い印象です。

実際、私たちが話をする際に、「おはようございます」の9文字全ての発音を、明確に明瞭に発音するように意識するかというと、そうではありませんよね。少しあいまいだったり、若干不明瞭だったりすることもあります。しかし、ちゃんと伝わりますよね。(「今、噛んだでしょ」とツッコミが入ることはありますが…)

つまり、発音だって、100%でなくても良いのです。

相手に伝わるために、押さえるべきポイントと、逆に力を抜くべきポイントもあるということを、実際に発音をしながら練習します。

単語→文→会話

とだんだんと意識する要素を長くしていきますが、最終的には、「寝ながらでも話せる」のが理想だと思っています。

そして、ことばを思い出すための練習については、

「自分のペースでない環境で、いかに話すか」ということを意識してトレーニングを組んでいます。例えば、これも自主練習教材ですが…

こんな感じ。

制限時間があって、その時間の間に写真の名前や、色、その物の特徴を挙げるという練習。

初めは制限時間15秒ほどあるので比較的余裕がありますが、最終的には3秒(!)まで縮んでいきます。

でも、言えなくても容赦なく動画は進んでいきますので、気を取り直して次にトライできるかどうかもポイントです。

ともあれ、様々な方法がありますが「条件が制限された状態」という、自分にとって少し不利な状況に合わせながら話すということが、トレーニングのポイントでしょう。

こういった練習のコツは「100%を目指さない」という事です。

パッと思い浮かばなかったときに、別のことばに迂回できるということも、一つの大切なテクニックです。

最終的には「相手に伝わる」ということが何よりも大切。

「ことばを発する」ということは手段なのであって、その言葉でなかったとしても、ちゃんと伝わる事が大切です。

これらの教材、まだまだ少ないのですが、実は、「ことだま」を利用してくれているメンバーの皆さんに合わせて作っているものを、ついでに公開しているという感じです。

リハビリを続けるという事は、とても大切なことだとは思いますが、リハビリだって、生活のための一つの「手段」にすぎません。皆さんの生活で大切にしてほしいことは、リハビリの向こう側にある生活の楽しさや充実感にあると思います。

「こんなことをしてみたい」

「〇〇さんに、こんなことを伝えたい」

そんな思いで、ことばのリハビリを楽しく取り組んでいただけたらありがたいです。

そして、皆さんの生活の片隅のルーチンとして「こんな自主トレ教材が欲しい」というものがあれば、少しずつ、作り足していきたいなと思っています。

ABOUT ME
ひびたかまさ
ひびたかまさ
言語聴覚士/公認心理師/旅行介助士/臨床宗教師
生活の隣にいるSTを目指して、2022年に寺子屋ことだまを始める。
ことばのリハビリが主な仕事。
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