失語症のリハビリで大事だと思う事
それなりに、長い間失語症臨床に携わってきて、失語症のリハビリにとって最も大事だと思っていることがあります。
それは「人と関わること」。
あたりまえのようで、実は、失語症の当事者の方々にとっては、とてもエネルギーのいることで、うまく話せない、思うようにコミュニケーションがとれない事が重なって、人と関わる事に自信を無くしてしまう事も少なくありません。
それでも、やはり最も効果的で、最も続けるべきリハビリは、いろいろな人と、どんどんと関わる事だと思っています。
急性期や回復期など、比較的経過の短い時期はともかく、年単位での経過となってきた時は特にそうです。
生活期の当事者さんにとって、どんなリハビリが、どんな効果をもたらすのか??
発症して間もない頃と、発症してから長い経過を経た頃の失語症のリハビリは、どれほど効果があるのかは、誰もが気になるところだと思います。
結論をまず言ってしまえば「失語症のリハビリは、時間がたったら効果がない」ということは決してありません!
ただ、タイミングによって(あるいは、リハビリの内容によって)、目的も効果も異なるという事は、是非知っておいていただきたいところではあります。
病気をして(失語症になって)、ある程度時間がたった「生活期」と呼ばれる時期になると、グングン良くなっていく、、、という実感はなかなか持てないということは、珍しくありません。
しかし、それでも、リハビリをする意味はあると考えています。
例えば、経過が長くなって個別でリハビリをする時には、まず「自分の状態を知る」という事にぜひ着目してみてください。
1対1で、言語聴覚士という専門家と対面してリハビリをする時
・どんな問いかけに対して、ご自身がどれくらいの受け答えができるのか
(あるいは、そのやりとりに、どれくらいエネルギーを使うのか)
に着目してみましょう。これは、ご家族をはじめ周囲の支援者の方も同様です。
そして、その1対1でのやりとりで、ご自身の「全力」が出せているか?を確かめてみましょう。もし、余力がありそうなら、トレーニングの難易度を、少し上げてもらっても良いかもしれません。
つまり、自分自身の現状と、限界を知っておくということです。
「これくらいの事を、これくらいの時間続けていたら、これくらい疲れる」
ということを、ちゃんと把握しておきます。
多くの場合、実際のコミュニケーションの場面では、1対多数であったり、周囲に雑音など気が散る要素が満載ですので、本来のちからをどこまで発揮できるか、それだけで推し量ることはできないかもしれませんが、まずは、自分自身の現状を、よくわかっておくと良いと思います。
1対1のリハビリは、「メンテナンス」的要素もあると言えるかもしれません。
外に出ることがリハビリ
その上で。
リハビリという目的意識を持って、一歩外に踏み出してみましょう。
まずは、近くの失語症サロンや、友の会のような会に参加するのでも良いかもしれません。
そういう会に参加して、何も話さずにそこにいるだけ、でももちろんかまいません。
例えば。
失語症友の会に参加して、何も話せずに帰ってきてしまった…とがっかりしている方がおられるかもしれませんが、「いつもの生活の場とは違うところで、新しい言語環境の中にいる」という事は、それだけでも大いにリハビリになるものです。
話をしようとして、うまく言えなかった、という時。
これも、「言えなかった」事ではなく、「言おうとした」という事が、とてもとても大きな一歩だと思うのです。
絵カードを見て、名前を言う、というだけのような、単純作業とは異なり、
コミュニケーションの中において、ご自身が何かをキャッチして、何かを発しようとしたこと。それが、何物にも代えがたいリハビリであろうと思います。
もしそこに、STを含む支援者がいて、少し後押ししてくれることがあれば申し分ありませんが、限られた生活環境から出て、新しい環境の中で挑戦するということは、言語聴覚士と1対1でリハビリをすることなんかよりも、とてもとても刺激になりますし、また、人とのつながりができるということは、それだけで勇気が湧いてくるものです。
なかなか、初めの1歩を踏み出すことには勇気がいるかもしれませんが、もし、一人ではなかなか…とためらってしまうのであれば、是非是非、ご連絡ください。
岐阜県では、「岐阜県失語症意思疎通支援事業」というのが始まっていて、毎週月・金曜日の午前中には、無料電話相談も受け付けています。ワタクシ、中の人をしておりますので、そういった公的サービスを使っていただくのも、手かもしれません。
「近くの喫茶店に行きたい」
というのでもOKなのですよ!