失語症当事者との街歩き。注意したいことは?
7月のサロンことだまは、集会室を出て実際の街に出ての開催。
遠方からの参加者の方もあって、半ば旅行気分も味わえましたね。
さて、そんな嬉し楽しい街歩きサロンですが、いざ街に繰り出す際には、気をつけなければいけないこともたくさんあります。今回は、失語症当事者(高次脳機能障害も含む)と、混雑した街の中を楽しく一緒にぶらり旅するためのコツを、いくつかご紹介します。
基本は、当事者さんの希望を聞くこと
コツというよりは、これは前提条件です。いろいろと、一般論で話をしても、結局は個々人の感覚的な部分でのお話になることも多々あります。
単に隣を歩くという時でも
「近くが良い」という方もあれば
「少し離れてほしい」という場合もあります。
恐怖感や、不安感と、どう付き合うかという問題にもなりますので、何よりも、お互いのコミュニケーションをよくとって、お互い快適に過ごせるように打ち合わせしておきましょう。
どちら側に立つか?
身体に麻痺がある場合には、まずは麻痺側に立つようにしてください。
(杖を使っている場合は、杖とは反対側に立つと良いでしょう。)
これは、身体的な介助の理由もあります。
しかし、実は高次脳機能の面でも、「麻痺側」に立つ理由があるのです。
・注意障害
・半側空間無視
という障害があります。
注意障害というのは、たくさんの刺激の中から1つのことに集中して注目したり、逆に、複数の事に同時に注意を振り向けたり、あるいは、注目するポイントを随時切り替えていく事に対する問題です。
半側空間無視というのは、注意障害とよく似ているとも思われていますが、麻痺側(あるいは、ダメージを受けた脳の反対側)について、見えてはいるけれど気付けない症状です。
なので、麻痺側(無視側)にある物や人に、相当気を付けていても、気を付けきれない場合があるということです。
と、いうわけで、同行者が、麻痺している側(無視のある側)に立って、ガードレールやセンサー役を担うという意味で、麻痺側に立つと良い、というお話です。
体力だけではない疲労
失語症や高次脳機能障害があると、人の動きや様々な音が交錯しているので、そうした過多な刺激に、頭の体力がどんどん消耗してしまいます。
もちろん、歩くこと自体で体も疲れますが、同様に(それ以上に)頭も疲れます。
・歩く速度をゆっくりにする
・当事者さんのペースで休憩をとる
ようにしましょう。
理想的には、折りたたみいすとか、さっと腰掛けられる環境をすぐに作れれば良いのでしょうが、なかなか大変だと思うので、トイレの場所と、座って休める場所は、無意識的にでもチェックできるようにアンテナを張っておけると良いと思います。
ユーバ産業 スワレル 花柄モノトーン シルバーカー
ちなみに、上記のような、座れるタイプのシルバーカートは、実はとてもありがたい存在です。荷物も入るし、座面もしっかりしているものも多いので、ちょっと座りたい時にすごく便利です。
座れるキャリーケースもありますが、値段も高いし、キャリーケースはやっぱりキャリーケースなので、私個人としては、シルバーカートがおすすめです。
また、普段当事者さんはシルバーカートを使わないということもあるでしょう。
そんな時は、当事者さんには、いつものように歩いていただいて、となりで同行者がシルバーカートを押して歩く、ということもアリだと思います。当事者さんが、いかに「いつも通り」の環境で街を歩けるかという事がポイントです。
コミュニケーションの支援
最近でこそ、マスクやパーテーションは少し減ってきた感もありますが、多くの店員さんの言葉は、私もなかなか聞き取れません。
ショッピングやお食事などで、店員さんとコミュニケーションをとることも旅の醍醐味ではありますが、パッと早口で言われたり、ちょっと聞きづらかったりすることもあるでしょう。
そんな時に、
「すいません、もう1回言ってもらえますか?」
の一言を、代わりに言っていただくのは、とても助かります。
もちろん、間に入って、何と言っておられるかお伝えいただくのもOKですが、あまり先回りしたり、まるで通訳のようになってしまうのも、ちょっと違うような気がします。
お手伝いはもちろん大切ですが、せっかくのぶらり旅、メンバーみんなが、楽しく満喫できりょうな支援ができると、素敵だなと思っています。
その他、細かな注意点
商店街のように、人がごった返すような場所で歩くとき、周囲の人々の不規則な動きや、お店から急に出てくる人などに、危険を感じたり、そうでなくても常に気をはっていなくてはいけません。先にも述べたように、同行者がしっかりとセンサーと信号の役目を果たせるように、少し前に出たり、少し速度を調整したりという配慮が大切です。
その上で、もう少し気を付けることがあるとすれば、
・路面の環境
アスファルトなのか、砂利なのか、あるいは微妙な傾きやデコボコがないかなど、普段、何の気なしに対処している路面状況が実は大きなハードルだったりします。
とくに、手すりの無い状況でのわずかなスロープや段差は、かなり怖い。場合によっては、介助が必要な場合があります。
歩行時や段差、勾配のある路面での介助方法については、当事者さんに聞いておきましょう。事前に、どういう手伝い(介助)をができると、いざという時に安全なのかを把握しておくのが肝要です。
いざという時、まさにその時に尋ねても、気持ちが焦ったり疲れていたりして、思うようにコミュニケーションが取りづらいという状況もあります。
まとめ
楽しい街歩き。
失語症や、高次脳機能障害の当事者さんとのぶらり旅で、同行者が心がけてほしいのは
・危険、疲労のセンサー、信号の役目
・コミュニケーションのお手伝い
当事者本人が、集中したいことに集中できるように、不安要素をどのように解消していくかがポイントです。そして、無理のない行動計画を立てる事。
速度も、密度も、ぜひ当事者のペースに合わせていただけると、楽しい街歩きになるのではないかと思います。