ことだま日誌

「易怒性」を考える

Hbtkms

「易怒性(いどせい)」という言葉を聞いたことはありますか?

読んで字のごとくなのですが、「容易に怒りやすくなる性質」なのですが、脳損傷後の後遺症の一つとして、多くの人を悩ませる症状です。

脳梗塞や脳出血、外傷性脳損傷などの後遺症として、「以前より怒りっぽくなった」「些細なことで感情が爆発するようになった」と感じることがあります。こうした状態を易怒性(いどせい)と呼びます。
易怒性は本人の性格の問題ではなく、脳の損傷によって起こる症状の一つです。そのため、周囲の理解と適切な対応がとても重要になります。

主な要因

こうした感情の変化は、様々な要因で起こりますが、大きくわけると3つのことが考えられます。

1つ目は、感情をコントロールする脳の働きの低下です。
特に、前頭葉などが損傷を受けると、「怒りを抑える」「一度立ち止まって考える」といった心や感情における「ブレーキ」の機能が効きにくくなることがあります。

2つ目は、疲労やストレスの影響です。
脳損傷後は、見た目以上に脳が疲れやすく、集中や判断に多くのエネルギーを使っています。私たちも、疲れていたり体調が悪い時などはイライラするものですが、それが毎日、あるいは一日に何度も、体力の限界を迎えている状態だと考えてみてください。
心に余裕がなくなり、結果、怒りとして表出しやすくなります。

3つ目は、失語症や高次脳機能障害によるもどかしさです。
言いたいことが伝わらない、理解できない状況が続くと、本人の中に強いフラストレーションが溜まり、それが怒りとして現れることがあります。

易怒性への対策と関わり方

まず大前提として「わざと怒っているわけではない」ということは、心に留めておきましょう。責めたり叱ったりしても、かえって苛立ちが強まることがあります。

具体的な対策としては、
・疲れる前に休憩を入れる
・予定や環境をできるだけシンプルにする
・一度に多くの指示や質問をしない
など。精神的な、あるいは頭の体力に配慮して、負担を減らす工夫が有効です。

怒りが出たときは、その場で正論を伝えようとせず、一旦距離を置く・時間を置くことも大切です。落ち着いた後で、短く具体的に気持ちを共有する方が、本人も受け入れやすくなります。

脳損傷後の「易怒性」と向き合う家族のために

脳梗塞や脳出血、頭部外傷などの後遺症としてみられる易怒性(いどせい)
怒りっぽくなる、大声を出す、物に当たる、突然感情が爆発する――。
こうした変化に、一番長く向き合うことになるのが家族です。

「分かってあげなければ」「病気のせいだから我慢しなければ」
そう思いながらも、心の中では
怖い
しんどい
もう限界

と感じている方は、決して少なくありません。

その気持ちは、とても自然で、正当なものです。

易怒性は「性格」ではなく「脳の症状」

易怒性は、本人の性格が変わったわけでも、家族を困らせようとしているわけでもありません。
感情を抑えたり、状況を冷静に判断したりする脳の働きが損なわれることで起こる、れっきとした後遺症です。

さらに、前述のように
・疲れやすさ
・思うように言葉が出ないもどかしさ
・自分ができなくなったことへの悔しさ
こうした積み重なったストレスが、怒りとして噴き出してしまうこともあります。

本人自身も、後から「どうしてあんなことを言ってしまったのか」と苦しんでいる場合があります。


家族が感じる「恐怖」や「逃げたい気持ち」について

易怒性のある方と生活する中で、
・怒鳴り声に身がすくむ
・次に何が起こるか分からず緊張が続く
・自分の言動を常に気にしてしまう
そんな状態が続くと、家族の心と体は確実に消耗します

大切なのは、
「家族だから耐えなければならない」わけではない
ということです。

怒りをすべて受け止める必要はありません。
その場から離れる、別の部屋に行く、信頼できる人に助けを求める――
逃げることは、無責任ではなく、自分を守る行動です。

「受け止めない」ことも、立派な支援

怒りが強く出ている最中は、正論を伝えても届きません。
むしろ火に油を注いでしまうこともあります。

・今は対応しない
・落ち着くまで距離を取る
・安全を最優先する

これらは「見放すこと」ではなく、状況を悪化させないための選択です。
時には、ショートステイを始めとした施設利用を考える事も、逃げの一手ではなくお互いのために穏やかな関係性を築くために必要なこととも言えます。

そして、本人に言える状況であれば御の字かもしれませんが、身近なひと、あるいはケアマネさんなどのサービス調整を管理してくれる人や、関わっている医療職や介護職の方々に
「怖い思いをしていて、実は毎日が辛い」
「本当は、こしてほしい」
と、伝えてみてください。

一人で抱え込まないでください

易怒性への対応は、家族だけで背負うには重すぎる課題です。
医師、言語聴覚士、作業療法士、相談支援員など、外部の手を借りてよい領域です。

環境調整や関わり方の工夫、場合によっては薬物療法が助けになることもあります。

支える人が壊れてしまっては、支援は続きません。

最後に

理解しようとすることと、我慢し続けることは違います。
寄り添うことと、自分を犠牲にすることは違います。

どうか、
「逃げてもいい」
「助けを求めていい」
そのことを、忘れないでください。

あなた自身の安全と心が守られることが、何よりも大切だと忘れないでください。

ABOUT ME
ひびたかまさ
ひびたかまさ
言語聴覚士/公認心理師/旅行介助士/臨床宗教師
生活の隣にいるSTを目指して、2022年に寺子屋ことだまを始める。
ことばのリハビリが主な仕事。
記事URLをコピーしました